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2020.05.28

都会の真ん中で見る文明開化の面影

  • Category culture

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都会の真ん中で見る文明開化の面影 -旧新橋停車場再現- (最終回)

 

 

旧新橋停車場は、新橋駅を降りて墨田川に向かって歩き、中央通りを渡った先に再現されている。停車場というのは、現在でいう駅のことである。旧新橋停車場は、1872(明治5)年に新橋と横浜を結んだ日本初の鉄道の出発点として建てられた駅舎である。

当時の駅舎は、1923年の関東大震災で焼失したが、20034月に当時の駅舎を再現し、飲食店や鉄道歴史展示室を併設した複合施設としてオープンした。当時の駅舎は、主たる構造を木造とし、外壁に石を積んだ木骨石張り二階建ての建物で、この施設を長手方向に併置させて、中央に低層部を設けて繋いだような施設であった。

設計は、幕末の横浜で土木事務所に勤務し、後に技術者として建築なども手掛けたリチャード・P・ブリジェンスによって設計されたもので、再現にあって外観上はオリジナルに近い形で再現された。再現にあたっては、歴史監修を当時・東京大学教授であった故・鈴木博之博士が担当し、設計は日本設計とJR東日本建築設計事務所が担当した。


焼失後80年を経て再現に至ったのは、発掘によって当時の遺構が確認されたこと、写真資料が保管されていたことで可能になった。遺構により、基礎の位置や規模が把握できたことで、古写真との整合をはかり、規模や窓の割り付け、高さ関係など、特に外観上のスケール感が把握できたことが大きかったようである。これらの遺構は、旧新橋停車場跡として、1965512日に国の史跡に指定され、再現にあたって重視された遺構が発見されたことから2000327日に追加指定を受けている。この遺構の一部は、鉄道歴史展示室の床のガラス越しに見学することができる。

 

背面側には、かつてのプラットホームと線路が再現され、絵図に見られるようなホームの屋根の骨組みも再現されている。

外壁は、当時は伊豆斑石であったとされるが、現在は札幌軟石で再現されたように、すべてを当時の材料で再現することが難しいこともあり、現代でも手に入る類似した材料や構法で対応したという。

旧新橋停車場は、江戸城が無血開城された1868年からわずか4年後、新政府軍と旧幕府軍が争った1869年の戊辰戦争終結の3年後に開通しており、新しい時代の幕開けのふさわしい洋風駅舎の外観は数多くの錦絵に記録された。錦絵に描かれた文明開化の面影を、東京都港区という都会の真ん中で、そのスケール感とともに追体験してみてはどうだろうか。

 

参考:東京人No.188、都市出版株式会社、2003.3
   東京人No.190、都市出版株式会社、2003.5

 

連載の最後に、自著を紹介する機会をいただいたので、簡単な紹介を最後のとりまとめに代えたせていただくことにする。

  『日本の建築家解剖図鑑』

本書は、日本の建築家の経歴や考えたこと、作風などに注目し、それを解説した本である。読者の対象は、建築の初学者、建築に興味を持っている若い人々を念頭にしていた。そのため、ひとつひとつについて、深く切り込んだ考察をするというようなことではなく、建築家は何を思い、何を考えて、どのような作品を手掛けたのかといったことを概説している。建築家については、建築家自身の言葉に加えて、研究者の諸先輩方が関わってきた多くの研究蓄積がある。本書は、これらを参考に、編集したようなものである。興味を持った建築家については、より深く学んでもらえるよう、参考文献には多くの参考資料を紹介している。

選定する建築家、作品、時代の区分など、何を基準にどう分けるのかという点は、難しい面が多かった。

時代の区分については、大正時代は短く、第二次世界大戦後の建築家はご存命の方も多く、時代による建築家の増減が極端に生じてしまうこともあり、多少の調整が必要であった。

建築家の選定については、東京大学に偏らないよう、できるだけ幅広く、数多くの大学や学校の名が触れられるよう人選を意識した。宮内省などの組織を含めたのも理由の一つである。住宅中心の作家については、著名な建築家でも抜けている方々多くいる。ただ、著名な住宅作家や著名な建築家は、多くの本で紹介されていることもあり、本書を手に取ることの意味を少しでも持ってもらえるよう、多少の偏よりは持たせている。日本の建築家という割には、知らない建築家がいる、とか、マニアックな人選、という指摘があるとすれば、本書で知ってもらえることに繋がったということで、この本には一定の意味があることになる。

作品も同様である。著名な建築家は、選ばれるべき理由のある、同じ作品が扱われやすい。つまり、著名なものは、既往の文献でも知識は補充できる。本書は、建築家を紹介するものなので、作品選定の自由さを生かして、幅広く目を向けている。例えば、山田守の死後受け継がれた事務所の作品などを取り上げているのもその一例である。また、日頃、歴史的建築物の保存や活用に関わっている関係で、できるだけ多くの東京以外の地域の名称を含めたいという意図も働いている。

本書は、著名な建築家がどのように建築に向き合ってきたのか、社会と関わってきたのかが概説してあるので、初学者にとっては、どのようなことを考えて取り組んでいけばいいのかを考える手掛かりになるのではないだろうか。

 

 
     
   

博士(工学)、有限会社花野果 代表取締役

Satoru Nimura

受賞歴:O-CHAパイオニア学術研究奨励賞 受賞、第47回SDA賞 サインデザイン奨励賞・九州地区賞特別賞 受賞、第5回辻静雄食文化賞 受賞ほか

静岡県掛川市 (旧大東町) 生まれ。博士(工学) (東京大学)。
東海大学大学院博士課程前期修了。元・静岡県立大学食品栄養科学部 客員准教授。
現在は、有限会社花野果 代表取締役、専門学校ICSカレッジオブアーツ 非常勤講師、日本大学生物資源科学部森林資源科学科 研究員・非常勤講師、工学院大学総合研究所 客員研究員。

主な著書:水と生きる建築土木遺産 彰国社 2016、日本の産業遺産図鑑 平凡社 2014、食と建築土木 LIXIL出版 2013、図説台湾都市物語 河出書房新社 2010

花野果 HANAYAKA
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