スタイルアリーナは一般財団法人日本ファッション協会が運営しています。

スタイルアリーナは一般財団法人日本ファッション協会が運営しています。

SNAP SEARCH

2020.09.26

テキスタイルがつなぐ日本とイタリア

  • Category CULTURE

SHARE

 

 2020年9月11日、イタリアの「ビエラマスター※1」と日本の「産地の学校※2」の交流会が開催されました。昨年の交流会はビエラマスターの学生が日本を訪れましたが、今年は新型コロナウィルスの影響により、オンラインでの開催となりました。

 

 

 

  

 

 

 ベンベルグ®について学ぶ

  

 

 

まず初めに、旭化成株式会社パフォーマンスプロダクツ事業本部ベンベルグ事業部および繊維マーケティング室より、「ベンベルグ®※3」についてのセミナーが行われました。

ベンベルグ®は、旭化成が世界で唯一製造している再生セルロース繊維キュプラ、宮崎県・延岡で作られています。ベンベルグ®の優れた特性や環境への配慮など、ベンベルグ®の情報が盛り沢山のセミナーでした。

 

ビエラマスターの学生は、ノートを取りながら熱心にセミナーを聞いていました。プレゼンテーション後の質問では、「製造工程で生じる廃棄物はどのように再利用していますか?」というサステナビリティへの質問や「ベンベルグ®は湿式紡績(紡績には湿式紡績と乾式紡績などさまざまな方法がある)ですか?」といった専門的な質問が寄せられました。質問から議論が発展し、ベンベルグ®の原糸断面が丸い理由など、学びを深めました。

 

 

 

  

 日本の産地について学ぶ

 

 

次に、産地の学校を運営している宮浦さんによる、日本の産地紹介が行われました。

宮浦さんが代表を務める株式会社糸編は、東京都・月島にある築100年の古民家を拠点としています。日本の産地紹介は、たくさんの生地が保管されている、技術と伝統が詰まった古民家の紹介からスタートしました。

 

 

 

 

日本には多くのテキスタイル産地があります。今回のセミナーでは、尾州、備中備後、京都、遠州、足利、桐生、北陸、久留米、富士吉田、高野口、合計10産地を紹介。各産地は、地理、糸の形状、素材、織り・編み、染色方法の5つのポイントから紹介されました。

  

 

  

紹介後は、各産地の実物のテキスタイルを画面越しに見ていきました。

 

コーデュロイで有名な遠州地方のテキスタイルは、通常のコーデュロイとジャカードコーデュロイの比較を行い、画面越しにも伝わってくる技術の高さが印象的でした。ビエラマスターの学生は、1つ1つのテキスタイルに質問を行い、日本のテキスタイルへの関心が伝わってきます。

最も関心を集めたのは、京都のハンドプリントや加工方法です。糊を用いた加工方法についての質問も寄せられ、ハンドプリントや特殊な加工により、産地独自のテキスタイルが生まれていることを学びました。

 

 

 

 イタリアと日本のプレゼンテーション交換会

 

 

ベンベルグ®と日本の産地について学んだ後は、ビエラマスターの学生と産地の学校の学生と講師によるプレゼンテーション交換会が行われました。プレゼンテーションはビエラマスターの学生から始まり、日本とイタリア交互に行いました。

 

それぞれのプレゼンテーション内容を少しご紹介しましょう。

 

トップバッターは、ローマ出身のLorenzoさんです。ビエラマスターで学ぶ製品のサプライチェーンを知ることの大切さや自身の研究について紹介していました。大学でバイオメディカル工学を専攻していた彼は、旭化成のプレミアムストレッチファイバー「ロイカ」に関心を寄せ、染色性など詳しく質問していました。

 

日本のトップバッターは、福岡県・久留米から参加しているテキスタイルデザイナーの綿貫さん。久留米は、井上伝助が先駆者となり発展した歴史があり、「久留米絣」という手法や染色方法について紹介していました。綿貫さんが当日着ていた服も久留米絣で、独特の風合いや魅力がダイレクトに伝わってきました。

 

 

ヴェローナ出身のMartinaさんは、ファッションマーケティングのマスターを取得後、テキスタイルに関心がありビエラマスターに進学した方です。工場でのインターンシップを通して生産過程を知ることができたのが、とてもよかったと語っていました。

 

ベンベルグ®ラボ2期生の高橋さんは、サステナビリティに関心がある大学生。ベンベルグ®ラボでのプロジェクトや日本の縫製産地である岐阜県の紹介をしていました。将来的に大学院進学を考えているため、ビエラの学生からは「イタリア語の壁はあるが、日本人もビエラマスターに進学できる」とアドバイスをもらっていました。

 

 

Letiziaaさんは、ファッションデザイナーとしての経歴があり、自然との調和をコンセプトにしたプロジェクト「yogan」や自身が開発した「リコリス繊維」を紹介。

プロジェクトのコンセプトやデザインが魅力的で、購入方法や製作について質問が寄せられました。

 

 

大学生の塩澤さんはベンベルグ®ラボ2期に参加した大学生です。ベンベルグ®ラボで訪れた石川県について写真とともに説明してくれました。産地を訪れ、自分自身の目で工場を見ることにより、日本のテキスタイルの魅力に気がついたと経験を共有しました。塩澤さんは「Fashion Revolution」のインターンもしており、同じく「Fashion Revolution 」のアンバサダーであるMartinaさんと取り組みについて話し合っていました。

 

  

Matildeさんは、テキスタイルの川上を学ぶためにビエラに進学しました。スポーツウェアに関心があり、ウール製のスポーツウェアを作ることを試みています。ウールとスポーツという意外な組み合わせに、どのような種類のスポーツウェアを考えているかなどの質問が寄せられていました。

 

ミラノ出身のMicheleさんは、ペインティングを専攻していました。ファッションを学ぶ難しさとしてイノベーションや消費者の存在を挙げつつ、今後のテキスタイル業界への展望を語ってくれました。たくさん思い浮かぶアイディアを発展させ、将来的には日々の生活の中でのつながりを可視化することが目標だと語っていました。

 

ベンベルグ®ラボ1期生の森口さんは、大学卒業後に富士吉田へと移住し、地域おこし協力隊として活躍しています。富士吉田は東京から近いので、多くのデザイナーが工場を訪れるそうです。

 

 

ベンベルグ®ラボで入賞し、旭化成の支援のもとデザインしたテキスタイルを見せてくれました。ビエラマスターの学生からは織り方に関する質問が上がり、生地を見ながら説明。画面越しですが、生地のフシの様子まで伝わってきました。将来はテキスタイルコンバーターを目指しているそうです。

 

 

最後のプレゼンテーターである渋谷さんは、ニット工場で様々な経験を積み、ニットデザイナーとして活躍されています。昨年はウルグアイのウール農家でファームステイをされたそうです。ウール産地であるビエラの学生からの「ウルグアイとオーストラリアのウールの違いはなんですか?」という質問に、「オーストラリアに比べ、ウルグアイの羊は食べ物に恵まれており、均質性に優れ、強力なのが特長だ」と答えていました。

 

 

プレゼンテーション交換会では、ビエラマスターの学生や日本の参加者が、それぞれの経歴、現在行っているプロジェクトについて共有することでき、出身地やテキスタイルとの関わり方、学んできた分野に多様性があることが印象的でした。プレゼンテーションから、経験や強い思いを持ってテキスタイルに携わっていることが伝わってきます。世界各地から参加できることは、やはりオンラインならではのメリットです。

 

 

 

 

 

プレゼンテーション交換会の後は、交流会が行われました。交流会では、イタリアと日本の双方から質問が上がり、日本のテキスタイルやイタリア文化への疑問からディスカッションが発展し、中身の濃い時間となりました。疑問点を解消した後は、お互いのテキスタイルに対して抱く印象について意見を交換。後半はインスタグラムの交換会も開催され、これからのつながりや親睦のひろがりが期待されます。

 

 

テキスタイルへの想いでつながる

 

 

今回はオンラインでの開催でしたが、コミュニケーションが十分に行われ、日本のテキスタイルの特長や伝える側の思いはビエラマスターの学生に伝わったと言えます。今回の交流会は、ビエラマスターの学生にとって日本のテキスタイルについて学ぶ機会となった一方、日本からの参加者にとっては、日本と海外のテキスタイルの比較を通して違いを学ぶ機会となりました。そして、イタリアと日本の参加者に共通するのは、「良き伝統や技術を未来に残したい」という想いやサステナビリティへの関心の高さです。共通点を持ちながらも多様性ある参加者たちの今後の活躍が楽しみです。

 

 

 

 

 

<参加者の声>

 

ベンベルグ®ラボ2期生 塩澤さん

日本のテキスタイルの魅力を再確認できました。また、こんなにも海外の方が興味をもっていることに驚いたのと同時に、もっと多くの人に魅力を伝えたいと思うようになりました。実際のテキスタイルと日本やイタリアの産地の話をお聞きすることができ、とても勉強になりました。個人としては、国は異なりますが、同じような組織に関わっていたこともあって、とても親近感が湧きましたし、思いを共有できたのではないかと感じています。対面で開催できることが一番ですが、オンラインでも魅力を伝えることができていたので、これからさらに、様々な方法でテキスタイルの良さを知ってもらう機会が増えてくるのではないかと楽しみにしています。

 

ベンベルグ®ラボ2期生 高橋さん

はじめは英語でのコミュニケーションと聞き不安を感じていました。しかし、「テキスタイル」という共通事項があることにより、言葉を超えたコミュニケーションを築くことができたのではないでしょうか。ビエラマスターの学生は、学部時代は繊維とは異なる研究をしながらも繊維についてビエラで学び、全員がサステナビリティに関心を寄せていたことが印象に残っています。一緒にベンベルグ®や日本のテキスタイルについて学ぶ時間を過ごし、熱意を持って学ぶビエラマスターの学生の姿に憧れを抱きました。

 

 

※1 ビエラマスター

イタリア ビエモンテ州のウール産地ビエラの大学のマスターコース。繊維産業の生産現場を中心に学ぶ過程が多い。約20人から5名の学生が選抜され、通常はイタリア国内だけでなく世界の産地(オーストラリア、ニュージーランド、中国等)を訪問。旭化成の現地法人である旭化成繊維イタリアのほか、地元のゼニア、ロロ ピアーナ等もスポンサーに名を連ねる。

 

※2 産地の学校

株式会社糸編代表の宮浦氏が2017年に始めた、国内の繊維産業について体系的に学ぶ学校で、繊維産地の課題解決及び活性化に向けた活動を主体としている。旭化成はベンベルグ®ラボとして2018年から特別講義の支援を行っている。

 

※ベンベルグ=旭化成の登録商標で、一般素材名はキュプラ。

コンテンツをロード中