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2016.10.11

< WAZA - Craftsman work 4th > EDO-SUDALE Bamboo screen

  • Category culture

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< 技 - WAZAシリーズ 第4回 > 

田中製簾所 江戸すだれ

 

後継者不足に危機感を持ち、“すだれづくり”に励む

 

  現代のようにエアコンがなかった時代、すだれは室内の空気の入れ替えや、しきり、日よけなどに使われてきた。夏の風物詩ともいえる生活道具の1つで欠かせないものであった。今回は、明治時代から現在に至るまで、すだれをつくり続けている株式会社田中製簾所(田中耕太郎・代表取締役社長)を紹介する。

 当協会の伝統工芸取材・編集担当は9月上旬の暑い日の午後、台東区千束にある同社を訪問した。ちょうど、区内の中学生10人ほどが小物すだれの製作体験講座を行っていた。社長の田中さんは、こういった若い世代に対する体験講座を仕事の合間を縫って週1回くらいのペースで行っている。その土地の歴史やまちの成り立ち、そのまちに住む人々の日々の暮らしなどの背景があって、伝統工芸が存在するという考えを持つ。地元の小中学生に対しても、すだれづくりを通して地域の伝統文化を少しでも理解してほしいとの思いからだ。

 田中製簾所は明治初期に初代安太郎さんが墨田区本所で創業、大正2年に今の台東区千束に移った。現在、社長を務める耕太郎さんは5代目にあたり、父親である4代目の義弘さんとともに、東京都の伝統工芸士に認定されている。

 東京には3~4軒ほどすだれを製造している事業所があるが、竹、ヨシなどの材料の下ごしらえから仕上げまで、すべて行っているのは田中さんのところだけだという。

 

 すだれは平安時代に描かれた絵巻物にも、寝殿造りの内掛けすだれなどが登場する。当時、都があった京都周辺にヨシなどすだれの材料が生育していたことから、住居用にすだれづくりが行われてきた。江戸時代に入り、江戸は世界でも有数の大都市として発展、大名家や大店(おおだな)などが集積し、すだれの需要も多くなった。こういった状況を受けて京都のすだれ職人の中には、仕事を求めて江戸に移り住む者も多かったようだ。

 すだれづくりはつくるのに手間がかかり、また高価であったことから、宮中や公家、大名家など身分が高い層の屋敷や住宅などに使われてきた。時代が下って、江戸も後期以降になると町人文化が栄え、庶民が住む町家などにも使われるようになってきた。このあたりからすだれが下町の風物詩ともいえる存在となった。

 すだれづくりは、昔からすべてが手作業で行われている。製造工程も竹、ヨシ、ハギなどの材料によって異なる。




すだれは、用途によって、①外掛すだれ、②打掛すだれ、③応用すだれ、④小物すだれの4つに分けられる。

① 外掛すだれは、強い日差しを遮ったり、風通しや目隠しなどに用いられるもので、建物の外に掛けられる。素材は竹、ヨシ、ゴギョウ、ハギ、ガマが使われる。茶室には、皮付きヨシのすだれが珍重されるという。

竹皮すだれ

サツマヨシすだれ

御行(ゴギョウ)すだれ


② 打掛すだれは、平安時代から神社仏閣の室内や高貴な人の住宅などに使われ、優雅で格調が高い。

神前御簾

座敷すだれ(分け編み)


③ 応用すだれは、すだれ障子、屏風のほか、部屋の間仕切りや玄関などにも使われている。現在でも、京都の町家で夏になると障子、襖を取り払い、すだれ障子に替えるなど、一般にも使われている。

衝立


四枚折屏風

 
④ 小物すだれは、のり巻きを作る際ののり巻きすだれや、ざるそばのセイロに用いられ、業務用・家庭用など広く使用されている。素材はおもに竹で、竹の持つ天然素材が古くから日本の食文化を支えてきたといえる。

左上:のり巻きすだれ  右上:ざる蕎麦用・角

左下:ざる蕎麦用・丸  右下:もり蕎麦用・丸

※[製造工程]および[すだれの種類]についての写真は(株)田中製簾所のHPから抜粋。



 田中さんに、すだれづくりではどの製造工程が一番難しいか聞いてみた。「素材選びから、編み、仕上げなど実際、どの工程も手を抜けない」(田中さん)という。われわれから見ると一定のリズムで簡単に編みの作業を行っているが、全体の製造工程を覚えるには5年から6年はかかるという。特に、職人として一人前の仕事をこなせるようになるまでには、10年はかかるとのこと。

 多くの伝統工芸品を作る作家に聞いてみても、どこも後継者不足を心配するが、田中さんは「うちがやらないと残らない」との気概をもってやっている。地方自治体の中には、政策的に補助金を出して育成保護しているところもあるが、このようなやり方には反対する。「すだれだけでなく、いろんな業種を経験して内も外も知った人でないと結局、長続きしない」(田中さん)という。

 冒頭にも記述したが、区内を中心に小中学生の体験講座を行ったり、PTA、各種団体などからの製作体験講座も受け入れている。長い歴史を持つ生活道具、すだれづくりを幅広く理解してほしいからだ。その中で、田中さんは「特に、20~30歳代の若い方に伝統工芸を知ってほしい」と語る。多くの若い世代の中で、少しでも、すだれづくりに興味を持ち、受け継いでくれる人が出てくるのを期待してのことだ。伝統工芸品の製造に従事する人の中には、後継者の育成と称して多くの若者を受け入れている事業所もあるが、かれらを単に”人手“としてしか見ていない事例も多く見てきている。

 最近ではインバウンド(訪日外国人)の数が急速に増えているが、同社を訪れるのは欧州、米国などからの旅行者が多い。中国をはじめアジア地域からの旅行者は“爆買い”が中心と思われがちだが、田中さんは「アジアの人々はすでに歴史的にみてすだれを文化的に受け入れたり、実際に使ったりしているのではないか」と考える。

 伝統工芸に興味を持つ訪日外国人の中から、ひとりでも日本のすだれづくりを引き継いでくれる人が現れ、現在の生活様式にあった優れたデザインを持つすだれをつくりだしてくれたら素晴らしいことだと思う。こういった一つの草の根の国際交流の形を期待したい。


 

 

 (文・加藤公明)

 

 

■ 株式会社田中製簾所

 

東京都台東区千束1-18-6

TEL. 03-3873-4653

 

田中製簾所ホームページ http://www.handicrafts.co.jp/

 

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