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2019.12.24

町を歩く人にも気軽にアートを

  • Category CULTURE

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町を歩く人にも気軽にアートを『十和田市現代美術館』

 

 美術館と聞くと、一般には、一つの建物の中に展示室が複数含まれているという印象を抱く。けれども、十和田市現代美術館(設計・西沢立衛、2008年)はそうではない。展示室は、室内にあるのではなく、世田谷美術館(/trend/344)のようにボリュームを抑えた建物で複数に分割するというのでもない。展示室は、外部に出て独り立ちし、それぞれを回廊で接続する。展示室は、一見ばらばらに配置されているように見えるが、大きな円の中に納まるようにして配置され、町との繋がりを深くするように、展示室を凹凸させて、外部の空間を食い込ませている。展示室は、計画段階で展示作品が決められており、これに応じてボリュームが決められている。高さのそれぞれ違う展示室は、大きな窓で開かれ、表通りからも展示を眺めることができるという点で、美術館としては異例である。町を歩く人にも気軽にアートが感じられるといった意図をはっきりと理解できる。

 

 美術館と町を繋ぐ重要な役割を果たすのは、角地に建つカフェである。カフェは、交差点に向いて大きなガラスで開かれる。展示施設と町とを繋ぐ場にすることが意識されている。美術館設置の目的として、町づくり、前面の通りの景観形成ということがあったとされるが、市民に親しみやすい場となる配慮として、カフェが導入部にある。カフェの利用は、観覧者以外も可能で、訪問時にも打ち合わせでの利用が見られた。カフェの床一面は、台湾人のアーティストの作品で、展示室も兼ねている。カフェを利用しつつ、この床で美術館に繋がる感覚が引き起こされる。暗くなってから、大きな窓を交差点から見ると、カフェ空間が浮き立ち、カフェ利用者が展示物のように見える点も、美術館と町とのバッファの役割を担っていることを想像させる。

 

 美術館の周囲は、高い建物も少なく、展示室一つ一つは周囲の住宅程度の規模に抑えられている。重なり合う白い展示室の箱は、周囲の山と重なり合い、夜間には浮かびあがる。展示室の窓は、町を歩く人がアートを身近に感じることが出来るための窓でもあり、道路を挟んで公園に広がるアートを繋げる窓にもなっている。東北地方は、特に寒い時期は曇りの日が多く雪景色になる。低層の建物は、曇り空とも馴染みやすく、白い箱はある意味では土地に馴染みやすい色でもある。

 

 前面の通りを歩くと、どの方向にも美術館の窓が向いていて、歩く人の目を楽しませる。美術館という一つの大きな建物から展示室を開放した、そんな建物がここにある。

 

参考文献:新建築2008年5月、新建築社
十和田市現代美術館 http://towadaartcenter.com/

 

博士(工学)、有限会社花野果 代表取締役

二村 悟

Satoru Nimura

受賞歴:O-CHAパイオニア学術研究奨励賞 受賞、第47回SDA賞 サインデザイン奨励賞・九州地区賞特別賞 受賞、第5回辻静雄食文化賞 受賞ほか

静岡県掛川市 (旧大東町) 生まれ。博士(工学) (東京大学)。
東海大学大学院博士課程前期修了。元・静岡県立大学食品栄養科学部 客員准教授。
現在は、有限会社花野果 代表取締役、専門学校ICSカレッジオブアーツ 非常勤講師、日本大学生物資源科学部森林資源科学科 研究員・非常勤講師、工学院大学総合研究所 客員研究員。

主な著書:水と生きる建築土木遺産 彰国社 2016、日本の産業遺産図鑑 平凡社 2014、食と建築土木 LIXIL出版 2013、図説台湾都市物語 河出書房新社 2010

花野果 HANAYAKA
https://tatemonoxxx.amebaownd.com/
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