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2019.11.29

白い森の中にいるような空間

  • Category CULTURE

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日本橋三越本店リニューアルプロジェクト

 

 国の重要文化財に指定されている日本橋三越本店。2018年10月のニュースで話題となったのは、建築家・隈研吾氏による内装の全面的なリニューアルであった。日本橋三越本店は、昭和2年に横河工務所の設計で竣工して以降、昭和10年、昭和31年、昭和39年と同じ設計事務所によって段階的に時勢に応じて増築され、このことが価値として認められた、重要文化財としても興味深い例である。

 

 店内に入り、直感的に森の中にいるような印象を受けた。後々隈研吾建築都市設計事務所のホームページを見てみると、設計意図は「白く輝く森」とあるので、間違ってはいなかったようである。白という色の選択は、リニューアルであることを考えると、リスタートや刷新、或いは来店者の色に染めていく、といったことに由来されるのだろうか。日本橋のこの地に森というのは、自然の森から江戸時代には都市へ、現代は都市の緑化がキーワードとなって都市の人工的な緑が意識されるようになり、今後は擬似的な森へ、といった展開が意図されているのだろうか。

 

 本来、森の木洩れ日は一定ではない。木の配列は、植林の場合はある程度一定だが、成長具合は一本一本で異なる。とはいえ、自然の森を既存の空間の中に落とし込むと森にはならない。森を具現化しようとすると、森とは程遠いものになる。森は、木が立ち並び、枝葉が繁り、木漏れ日が差す、という多くの人が感じる森の要素を抽出し、この要素を抽象化して森のように感じる空間を生み出している。既存の柱を木と見立てたときに、どうしても間隔は一定になるので、森の要素も基本的には一定とし、秩序のある森の様子を再現したようにも思えてくる。都市という複雑な世界には、複雑なように見えて、ある種の秩序を持つ森の再現は、どことなく安心感を誘うということもあるのかもしれない。

 

 重要文化財の日本橋三越本店と近隣に建つ髙島屋東京店。いずれも百貨店文化を現代まで継承してきた歴史的建築物であり、日本を代表する商業施設である。髙島屋東京店については稿を改めるが、こちらも大規模なリニューアルが行われた。切磋琢磨する2つの施設は、一度は訪れておきたい東京の名所の一つである。

 

参考:隈研吾建築都市設計事務所 https://kkaa.co.jp/works/architecture/renewal-of-nihonbashi-mitukoshi/ 

   国指定文化財等データベース 文化庁 http://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/index

 

 

 

博士(工学)、有限会社花野果 代表取締役

二村 悟

Satoru Nimura

受賞歴:O-CHAパイオニア学術研究奨励賞 受賞、第47回SDA賞 サインデザイン奨励賞・九州地区賞特別賞 受賞、第5回辻静雄食文化賞 受賞ほか

静岡県掛川市 (旧大東町) 生まれ。博士(工学) (東京大学)。
東海大学大学院博士課程前期修了。元・静岡県立大学食品栄養科学部 客員准教授。
現在は、有限会社花野果 代表取締役、専門学校ICSカレッジオブアーツ 非常勤講師、日本大学生物資源科学部森林資源科学科 研究員・非常勤講師、工学院大学総合研究所 客員研究員。

主な著書:水と生きる建築土木遺産 彰国社 2016、日本の産業遺産図鑑 平凡社 2014、食と建築土木 LIXIL出版 2013、図説台湾都市物語 河出書房新社 2010

花野果 HANAYAKA
https://tatemonoxxx.amebaownd.com/
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