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2020.01.15

「減築」-歴史的建築物の再利用

  • Category CULTURE

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「減築」-歴史的建築物の再利用 YKK丸屋根展示館

 

 YKK丸屋根展示館は、大野秀敏+アプルデザインワークショップ(APLdw)の設計で2008年9月に竣工した施設である。この施設は、YKK黒部工場(富山県)にあるセンターパークの一施設で、古い工場を改修して展示施設として再生された。センターパークは、YKKのものづくりの歴史や技術について学ぶことができる一般公開施設である。

 

 丸屋根展示館は、昭和33年(1958)にファスナーの紡績工場として竣工した建物で、壁体と屋根(アーチ状)を鉄筋コンクリート造とした工場である。筒を半分に切断するとアーチ部分が残るが、四角い廊下の天井にこのアーチを載せた状態の空間をヴォールトと呼ぶ。このヴォールト屋根の施設が複数並列した状態にあったのが、ファスナーの紡績工場である。この工場の歴史的建築物としての良さを生かしながら、部分的に壊して空間を減らす「減築」という方法を用いて、新たな空間に豊かさを与えていこうとする手法を用いた例である。言い換えれば、既存建物を引き算し、空間の価値を足し算する方法である。丸屋根展示館は、12000㎡の工場の一部を残した例で、実際には切り出したような状態である。現在は、展示施設として利用され、ラウンジやテラスを設けて再生されている。

 

 建物は、展示室AとBを重力に従って垂れ下がる屋根をかけたエントランスで繋いだもので、ラウンジからは外壁を抜いたガラスを通して中庭やガーデンテラスを望むことができる。減築したうえで、空間の質を高めるために壁などを撤去し、その上で必要箇所の補強を行っている。ラウンジから眺めると、眼前には中庭、中庭の向こうにガーデンテラスが廻り込み、その向こうに構造体でフレーミングされた外部が来るので、外部を眺めるときには複数の層を経ていることになり、奥行きが感じられるよう工夫されている。

 

 広い工場空間をその広さを生かして利用するのではなく、室内に壁を設けて個室化するのでもなく、空間の中からの広がりや見せ方を意図して必要最小限の部分を残し、歴史的な建物の価値を維持しながら新たな空間を創造している。

 

 外部とは、デッキや中庭を介して緩やかに接続しながらも、壁や天井などは必要に応じて最小限にそぎ落とされたことで空間の緊張感は高まり、緊張感をやわらげるようにΛ型の耐震補強が穿った壁に納まって屋根を支えている。

 

 モノづくりの歴史を学ぶとともに、この施設で工場建築の利活用の方法についても学びたい。

 

参考文献:新建築2009年1月号、新建築社、2009
     建築雑誌 作品選集、日本建築学会、2011.3

 

 

 

博士(工学)、有限会社花野果 代表取締役

二村 悟

Satoru Nimura

受賞歴:O-CHAパイオニア学術研究奨励賞 受賞、第47回SDA賞 サインデザイン奨励賞・九州地区賞特別賞 受賞、第5回辻静雄食文化賞 受賞ほか

静岡県掛川市 (旧大東町) 生まれ。博士(工学) (東京大学)。
東海大学大学院博士課程前期修了。元・静岡県立大学食品栄養科学部 客員准教授。
現在は、有限会社花野果 代表取締役、専門学校ICSカレッジオブアーツ 非常勤講師、日本大学生物資源科学部森林資源科学科 研究員・非常勤講師、工学院大学総合研究所 客員研究員。

主な著書:水と生きる建築土木遺産 彰国社 2016、日本の産業遺産図鑑 平凡社 2014、食と建築土木 LIXIL出版 2013、図説台湾都市物語 河出書房新社 2010

花野果 HANAYAKA
https://tatemonoxxx.amebaownd.com/
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