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2018.07.06

<技〜waza Vol.6> 落語の魅力 PART 2 ①

  • Category CULTURE

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< 技 - WAZAシリーズ 第6回 > 第一話

 

落語の魅力 PART2 ①

 

 前回の落語の魅力が好評につき? 調子に乗って第二弾をお届けする事となりました。

今回は落語に出てくる「衣」「食」「住」に注目してより落語の楽しみ方を深めて戴ければ嬉しいと思います。それでは早速始めましょう。

 

落語の「衣」

 

 日本には春夏秋冬の四季があり、古典落語の中でももちろんその移り変わりにおいて、夏物・一重 (ひとえ) ・袷 (あわせ) ・綿入れ等の着物を着て過ごしているという事になっているのですが、あくまでもそれは経済的に余裕のある人である事が条件であり、長屋物の落語に登場するような人々はその範疇には収まりません。逆に言えばその人の着ている物がその人物の境遇を表すのに最も分かり易い表現である場合が多々見られる事があり、それこそが落語の表現の神髄の一端であるとも言えます。例えば「芝浜」のおかみさんの台詞に「この寒いのに浴衣を袷で着ているんだよ!」というのがあります。

 真冬の時期に寝間着でもある浴衣しか着られない「貧しさ」、仕方が無いからこれを二枚重ねて袷にして (そんな物は生まれてこの方見た事はありませんが) 着るという「知恵」? が垣間見えてきて面白いと思います。また「文七元結」という落語では左官の主人公が印半纏一枚で帰ってきたというくだりがあります。こちらもそれだけ聞けば何の事だか分かりませんが「細川の袢纏一枚で帰ってくる」という台詞によって、この主人公が大名屋敷である細川屋敷の中間部屋で行われている博奕にはまって身ぐるみ剥がれる程の博奕中毒である事を如実に表しているという事なのです。

 

 このような事柄を取っても古典における時代の市井の人々の暮らしぶりが浮き彫りにされてくる楽しさがあります。この他にも注目しなければいけない衣類といえば「羽織」という存在です。着物の上に羽織って着るので「羽織」という安直な名前? なのでしょうが、現在でいう「フォーマル」な折には、この羽織は欠かせないアイテムという事になっています。

「金の大黒」という落語では大家さんの家での祝い事に長屋の連中が呼ばれる事となるのですが、誰一人その席で着るべき羽織を持っていず、ようやっと都合した一枚を皆で取り合うというナンセンスな様子を落語にしていますし、他にも「八五郎出世」という落語では、お殿様に見染められてめでたくお屋敷奉公の栄誉を得た事を知らせにいく大家さんが、「こういう時には (めでたいから) 羽織を着て行くんだ」とおばあさん (自分のかみさん) に羽織を支度させたりする様子を見ても、羽織は今のジャケットどころではなくタキシードのような扱いで、ある程度社会的地位にあった人物には必須の高級品であったと言えます。

 

 さて、季節によってそのような着物も羽織も先ほど書かせて戴いたように衣替えの時期には、ひと通り入れ替えをしたりするのですが、ここでもう1つこの衣替えで思わぬ苦労をする場所を書いておきたいと思います。

これがなんと、江戸の吉原と四宿 (品川・新宿・板橋・千住) という事になっています。言わずと知れた俗に言う「岡場所」です。そこで商売をしていたお女郎衆は春と秋にもちろん衣替をするのですが、これがただタンスの中身を入れ替えればそれで良いという訳にはいきません。ああいう里には「移り替え」という「しきたり」がありまして、日頃お世話になってる「若い衆」ですとか「おばさん」連中を集めて一席もった上に、ご祝儀を切って「明日からもどうぞ宜しく!」と、手を締めたりした上でようやく袷から一重あるいはその逆になれるという、大層入費の掛かった物だったそうです。

ですから (お金を出してくれる) お客のあまり付かなくなった下り坂のお女郎は大変だった事は想像に難くない所です。この辺りは多くの郭咄 (遊女買いの咄) にも登場し、また昭和32年公開の複数の落語を原作とした川島雄三監督の映画「幕末太陽傳」 (お勧めの1本です) ではこの辺りのエピソードを面白く見ることが出来ます。

 

 さて、思いつくままに落語に登場する「衣」とその周辺の決め事や風習などを書いて参りましたがいかがでしたでしょうか? こんな豆知識をお持ちになって、落語をお聞き戴くと、以前とは少し違って咄の世界が見えてくるかもしれません。他にも落語の中には江戸の頃ならではの面白いしきたりや文化が散りばめられておりますので、それらを見つける事も落語鑑賞の楽しみの1つにして戴ければ嬉しく思います。

 

                             (文 三遊亭小円楽)

 

噺家

三遊亭小円楽

Sanyutei Koenraku

昭和35年6月12日生まれ。昭和55年12月会社員を経て、五代目三遊亭円楽に入門、「三遊亭かつお」を名乗る。昭和58年10月1日「かつお」のまま二ッ目昇進。昭和63年3月1日三遊亭小円楽に改名し、真打昇進。平成3年7月には国立演芸場若手花形演芸会「銀賞」を受賞している。
趣味の映画鑑賞では、平成27年より日本ファッション協会のシネマ夢倶楽部推薦委員に就任、年間200本ペースで映画の試写に参加しており、日本で一番試写室にいる落語家と自負している。テニスでは落語テニス倶楽部総監督、その他シナリオライティングなども行っている。
特技は、長唄、端唄、サーカスや法事などの変わり種司会。
主な出演番組
日本テレビ「笑点」 アシスタント 昭和57~58年
江東ケーブルテレビ「見たい知りたい江東区」 平成4~7年
CM出演
千代田生命「スーパーグランプリ」
高橋酒造「白岳・電車編」2005年
出ばやし
「外記猿」「奴の行列」

三遊亭小円楽の館
http://www4.point.ne.jp/~koenraku/
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